プロダクトマネージャーに関する13の誤解
最近、プロダクトマネジメントやプロダクトマネージャーに関する情報が日本でも増えてきましたね。それ自体は良いことだと思っていますが、若干違和感を感じる内容が増えてきたので、自分のこれまでの経験からプロダクトマネージャーに関する誤解について述べたいと思います。
(自分はこれまでインターネット業界で十数年働いてきました。ベンチャー企業からキャリアをスタートさせ、起業し、その後現在はメガベンチャー起業にてマネージャー職を務めています。数多くの優秀なPMを見てきましたし、お世辞にもそうとは言えないPMもたくさん見てきました。その経験を元に執筆しています。)
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1. プロダクトマネージャーはエンジニア出身でないとダメ
これもよく言われるし、PdM志望者からよく質問されるやつですね。結論ですが、エンジニア出身でなくても優秀なPdMになれます!ご安心ください。(「【日本版】プロダクトマネージャーのキャリアパス・経験年数・想定年収・なる方法について」でもPdMに必要なスキルについて話をしています。)
プロダクトマネージャーは開発がメインの職種ではないので、その道のプロフェッショナルであるエンジニアと協同できるレベルの知識・経験があれば必ずしもエンジニアリングバックグラウンドである必要は無いです。
多くの企業ではエンジニア出身以外のプロダクトマネージャーも活躍しています(弊社でもプロダクトマネージャーの前のキャリア内訳は、エンジニア4割、ビジネス4割、デザイナー2割、ぐらいだと思います)
pmconf2022で大規模調査した日本におけるプロダクトマネージャーに関する実態調査レポート(こちら)によると、エンジニアバックグラウンドは3~4割なのかなと思います。(給料や経験年数の分布なども赤裸々に公開されており、面白いです)
とはいえ、エンジニアと協同でものづくりをする職種である以上、開発やシステムに関する知識が無いとやっていけません。喩えていうならば、自動車メーカーのPMがエンジンやハンドル、コンピューターについて理解してなかったら絶対に良い自動車は作れないですよね?そんな車に乗りたくはないです(笑)
また、企業やポジションによってはエンジニア経験を必須にしている場合もあります。例えばテクニカルプロダクトマネージャーと呼ばれるポジションはエンジニア出身者またはコンピュータサイエンスの大学or大学院の卒業生だけを求める場合が多いです。他の例ですと、AmazonでレコメンドシステムのPMポジションであれば機械学習やインフラ周りの知識・経験を求めるなども当然あります。
2. プロダクトマネージャーはプロジェクトマネジメントをしなくて良い
最近のPdM界隈(?)では「PdMとPjMは違うんだからPdMはプロジェクトマネジメントをしなくて良い!もっとプロダクトマネジメントに専念するべきだ!」という意見をときどき見かけます。本やネットで得た知識をベースに主張をしている経験の浅い人や、(誰とは言いませんが)タレント的な活動にピボットした元PdMにそういう人が多い気がします。
言いたいことは分かります。プロダクト戦略作成、プロダクトロードマップの策定、バックログの作成と管理、ユーザーリサーチなど、傍から見るとキラキラした業務をする職種だと思いたい気持ちもよくわかります。顧客のペインを見つけたり、ソリューションを検討したりすることに注力すべきだという意見もよくわかります。(一時期は自分もそう思っている(思いたい)時期がありました)
ただ、これまで所属したどの会社も、優れたプロダクト開発体制を構築されているスタートアップやメガベンチャーなどの知り合いも、これまでプロジェクトマネジメント的な業務をやってないというPdMはいなかったです。
例えば、1つのプロダクトにおいて様々な開発が同時並行でされている場合など、PdM自身がリリーススケジュールの管理までせずにどうやってプロダクトを成功に導けるでしょうか?(私には全くそのイメージが湧かないです)
書籍などを活用し、プロジェクトマネジメントスキルをしっかり身につけましょう!
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3. プロダクトマネージャーはミニCEOである
「プロダクトマネージャーはミニCEOだ」。これもとてもよく聞くフレーズですが、実際には違います。ただ、全てが間違っているというわけではなく、一面では正しいといえます。どういうことでしょうか?
PdMはプロダクトを最終的に成功させる責任を負っています。達成できなければプロダクトマネージャーであるあなたの責任です。競合が素晴らしいプロダクトを作ってシェアを奪われたり、エンジニアが工数見積に失敗してスケジュールが遅れたり、メンバーのスキルが足らなくて市場から求められているプロダクトを提供できなかった場合などもすべてPdMであるあなたのせいです。この点ではCEOと言って差し支えありません。
ただ、CEOと最も異なる点として「人事権を持っていない」というのがあります。製品を成功させる責任はありますが、それを実現するためのデザイナーやエンジニアに対して人事評価をしたり、指揮命令をする権利は持っていないのが通常です。なので、命令ではなく、ビジョンや方針を語ったり、説得力のあるデータを常に使うなどして、彼らのモチベーションを引き出さなければなりません。もちろん、彼らが気持ちよく働けるようにサポートしたり調整することもプロダクトマネージャーの業務の1つになります。
ただし、それでも製品が失敗した場合はやっぱりプロダクトマネージャーの責任です。
4. プロダクトマネージャーの資格や学問が無いので教育できない
これはひと昔前の話ですね。現在ではオンラインコースや書籍も豊富にあるので、実務経験がなくてもプロダクトマネジメントについて学ぶ機会は作れます。例えばUdemyなどのオンラインコースを受講することでプロダクトマネジメントの全体像を学ぶことも可能です。
また、大学などの学問分野ですが、たしかにプロダクトマネジメント専攻の大学や大学院は全然存在しないです。とはいえ、関連学問としては経営学やコンピュータサイエンス、デザイン思考などに特化した学部は世の中にたくさんあります。プロダクトマネジメントそのものが幅広いので、もし学びたい人はそれら領域のいずれかに当てはまる学部に通うのがオススメです。
ただ、個人的にはわざわざ大学に通って勉強しなおすよりは、本やUdemy講座で一通り知識を身に付けたあとは、さっさと実務経験を積んで試行錯誤しながらスキルアップしていくのが良いかなと思います。
5. プロダクトマネージャーはキラキラした業務ばかりしてる
これは明確にNOです!!傍から見ていると「プロダクトマネージャーはいつもキラキラした発信をしていて、本当に楽しそう!」「自分もあんな風に新機能を作りたい!」「あんなプロダクトを育てたい!」などと思うかもしれません。
当然、プロダクト作りは楽しいし、ときどき大規模な機能開発や新規リリースをやったり、キラキラしたインタビューを受けたり、たしかに華やかな側面はあります。しかし、(残念ながら?)それはほんの一部の顔でしかありません。
1年365日のうち、キラキラしているのは15日ぐらい。残りの350日は本当に泥臭い作業や業務の連続です。地道な根回しだったり、関係者とのコミュニケーションだったり、ドキュメント作成だったり、単純作業だったり、不具合確認や古い仕様調査だったり、、本当に日々やってる作業はほとんどがこういった作業です。
実態については「地味PM Advent Calendar 2022」をご覧いただくとイメージが付きやすいと思います。
こういった作業の積み重ねで、最終的にみなさんの目の前にでてくるキラキラした一面が生まれているのです。ここは覚悟しておかないと「思ってたのと全然違う職業じゃん!」ってなりかねません。
6. プロダクトマネージャーはアイデア出しや発想の天才だ
これも誤解です。プロダクトマネージャーだからといってアイデア出しに秀でているわけではないです。(私もそうですが)アイデア出すのがあまり得意ではない人もたくさんいます。
アイデアをゼロから生み出すというよりは、顧客やユーザー、エンジニアやデザイナー、経営者、カスタマーサポート、などあらゆるところからアイデアの種を集めて「なぜそれが必要なのか?」「それはどんな課題解決をできるのか?」をしっかり整理して、実現に向けて推進するのがプロダクトマネージャーの仕事です。
アイデア自体を生み出せなくても問題ありません。どちらかというと、イシュー分析をして、今解くべき問題をきちんと見極め、それに対応するソリューションを紐付けるほうがよほど重要です。
7. プロダクトマネージャーは製品開発にだけ専念している
これも誤解です。プロダクトマネージャーはプロダクトに必要なあらゆることをしています。
プロダクトマネージャーの中心業務はプロダクト戦略の立案、プロダクトロードマップの策定、プロダクトマーケットフィットの維持、KPIの管理とグロース、チームビルディング、プロダクトの要件定義、ABテストの設計と実行管理、などです。これは異論は無いと思います。
ただ、それら製品開発に直接関わる業務だけをするプロダクトマネージャーは幅が狭いです。実際のところプロダクトマネージャーは、製品の開発だけでなく、ユーザーインタビュー、製品のマーケティング、販売、およびサポートにも関わります。彼らは製品全体のライフサイクルを管理し、市場に合わせて製品を調整するためのリサーチや戦略の策定も担当しています。場合によってはGoogle広告やSNS広告の出稿・広告運用などプロモーションも担当するケースもあります。
もちろん製品開発の工程はプロダクトマネジメントの中の多くを占めますが、あくまでも一部でしかありません。プロダクトマネージャーの仕事は優れたプロダクトを作り目標達成させること。製品開発だけをやるのが仕事だと思っていると、その目標は実現できないです。
8. プロダクトマネージャーが単独でプロダクトの意思決定をする
これも違いますね。プロダクトの意思決定の多くはプロダクトマネージャーが実施します。ただ、プロダクトに関する意思決定は多くの関係者によって様々な議論・調整を経た上で行われるのです。例えば、デザイナー、エンジニア、マーケター、セールス、経営陣などの意見も踏まえて意思決定がなされます。
プロダクトマネージャーは、製品に関する重要な決定を下すための情報を提供し、議論を促進する役割を担いますが、製品の全ての決定を単独で下すことはありません。
9. プロダクトマネージャーは複数の役割をたった一人でこなせる
プロダクトマネージャーは色々な組織を横断して議論の中心にいることが多いため、それらすべてを熟知して、その役割をこなせると期待される場合があります。特にスタートアップなどの場合、「エンジニアリング以外はすべてPdMの仕事です。デザイン、法務チェック、採用、育成、プロモーション、広報、などもPdMが担当します。」と得意気に話している企業もときどき見かけます。
以下のプロダクトマネジメントトライアングルもよく見ると思いますが、これも「PdMって何でもやる仕事なんだね!」という誤解を導いています。(注:このトライアングルが間違っているというよりはトライアングル=やるべきこと=できること、のように誤解されていると思います)
引用元:プロダクトマネジメントトライアングルと各社の PM の職責と JD
しかし、これはとても危険です。優れたプロダクトマネージャーはチームが共通の目標に向かって全力で取り組めるように推進していくチカラを持っています。PdM自身が個々の役割を担ってしまうと、全体を推進する力がどうしても弱くなってしまい、チーム全体の生産性が低下してしまいます。
メンバーの退職などで一時的に補ったり、マーケティング畑出身のPdMなので広告運用も担当する、などはやむを得ないですが、定常化しないように注意しましょう!
10. プロダクトマネジャーはテック企業にしか必要ない
「プロダクトマネジャーが重要なのはわかるけど、ウチはGAFAMみたいなIT企業じゃないからねぇ・・」。ときどきこういう誤解も見受けられます。先に言っておきますが、テック企業じゃなくても何かしらプロダクトを企画運営しているのであれば、プロダクトマネジャーは必要です。
例えば、従前型の小売企業だとしても、店舗スタッフ向けの管理アプリを作っていたり、在庫管理や発注管理などの業務システムを作成している場合などがあると思います。いわゆるC向けサービスやB向けサービスじゃなくても、プロダクトを開発運営しているのであればそれは立派なプロダクト組織です。そういう企業にこそプロダクトマネジャーが必要だと思います。
また、開発組織を内製しているかSIerなどに外注しているか、も関係ありません。外注している場合も外注企業との折衝や要求管理などマネジメントは必須です。自社に開発組織が無くてもプロダクトマネジャーは設置すべきです。(もちろん、その場合は評価システムなど整えてあげないと辞めちゃうので、難しいことは重々承知ですw)
11. プロダクトマネージャーはスーパーマンしかなれない
傍からみると、プロダクトマネージャーは開発知識もあり、デザイン指揮もできて、戦略思考があり、資料作成も上手で、データ分析や解釈がうまく、コミュニケーションも上手で、何でもできる人しかなれないような気がしてきます。しかし、これも完全な誤解です。そんな人はめったにいません。
実際にこれまでスタートアップやメガベンチャーを通じて数十名〜百名以上のプロダクトマネージャーと一緒に働いたことがありますが、スーパーマンのような人はごくわずかです。せいぜい10人中2-3人程度かなと思います。そして、そのほとんどがプロダクト統括のポジションに昇進したり、スタートアップのCPOとして招聘されたりしています。
「自分はスーパーマンじゃないからPdMにはなれない」なんて思わなくて大丈夫です!ただ共通しているのは飽くなき探究心があり、自分自身とプロダクトの成長欲求が強く、困難やストレスフルな状況にも負けずに取り組むGRITがある、あたりでしょうか。
12. プロダクトマネージャーは顧客の言うことを聞いてはいけない
これは「昔の人は早く走る馬が欲しいと言っていたが、実際にもとめているのは自動車だった」などの事例を根拠としてよく言われますね。また、SaaSなどであれば「”この機能を追加しないと買いません”と言われたけど、実際に追加したが買ってくれなかった」などの事例もよく使われます。
たしかにこれらのように顧客は本当のことを言わない場合があり、顧客の言うことを鵜呑みにすると痛い目を見る場合も多いです。ただ、「顧客の言うことを鵜呑みにするな!」ばかりが浸透して、本当に必要だから欲しいと言っている機能やソリューションが提供できてないケースのほうが多いと思います。
“顧客はそんなに馬鹿じゃない”ということを肝に命じておきたいです。
13. プロダクトマネージャーは開発プロセスをあまり気にしない
これも時々言われますが、そんなことはありません。プロダクトマネージャーはより効率的な開発プロセスを探求しています。もちろん、多くのPdMは「開発プロセスをどう良くするか?」よりも「何を作るべきか?何が市場から求められているか?」を重視しており、それを実現する開発プロセスや体制についてはないがしろにしていると思われてしまう理由もよくわかります。
自分に関していえば、リーン・スタートアップ、ウォーターフォール、アジャイル、スクラム、など開発プロセスやフレームワークは様々あり、どれが自分の組織に最もフィットするのか?をよく考えています。自分はリーン・スタートアップのアプローチが最も好きですし、今のチームにフィットしていると思って取り入れています。
さいごに
本記事は「プロダクトマネージャーに関する13の誤解」と題して、PdMに関する勘違いを紹介してきました。プロダクトマネージャー自体の知名度や人気度が上がってきているタイミングなので仕方ないと思いますが、少しずつ是正されるとよりよいなと思います。
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